遅れてきた大魔王

<番外編 お返しは突然 (3)>

 窓の外を流れていく町並みを眺めながら、慎二は先ほど別れたばかりの彼女の事を考えていた。青くなったり赤くなったり、くるくるとよく変わる彼女の表情は、全く見ていて飽きることがない。
 時計を腕にはめた時の戸惑った顔を思い出して、彼は口元を緩めた。この一ヶ月、何にしようかとあれこれ考えてやっと決めた腕時計。彼女は喜んでくれただろうか。

 十代の女の子への贈り物なんて高校生の頃以来で、何が良いか随分悩んだ。生真面目な彼女のことだ、指輪やネックレスを贈っても校則違反になるからと普段はアクセサリーケースの中に放り込まれそうだ。その点、腕時計ならば学校に着けて行っても何の問題もないだろう。
 会えない時間が長い分、常に身に付けられる物を贈りたかった。彼女が片時も自分のことを忘れないように。柄にもなくロマンチックな事を考えている自分に、彼は苦笑した。

 彼が時計を選んだのには、実はもう一つ理由がある。
 
 この時計が刻む未来を君と共に。

 まるで時代遅れのテレビドラマのようなキザなメッセージは、彼女には秘密だ。


 一ヶ月ぶりに手元に戻ってきた巾着袋には、腕時計の他に小さなメモが入っていた。
 今週の土曜の夜に放送される音楽番組に、男とその仲間が出演するらしい。テレビ局の名前と放送時刻、それにどこで調べたのか聡子の住んでいる地域でのチャンネルが、赤いペンででかでかと書かれていた。
 週末の夜、聡子は居間のテレビの前にいた。番組開始五分前からカーペットの上に正座して臨んだ彼女の視線は、ある一点に釘付けになる。
 ブラウン管の向こうで歌う男のジャケットの胸ポケットからは、つぶらな目をしたウサギのキャラクターがどうもとばかりに顔を覗かせていた。
 「……っ山田ぁぁぁぁーー!!」
  大魔王でも歌手でも関係ない、やっぱりこいつは要注意人物だ。
  彼女は叫ぶと、側にあったクッションを掴んでテレビに向かって思い切り投げつけた。



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